キングオブコント2019感想(1stラウンドまで)
去る9/21(土)に、キングオブコント2019決勝が開催・放映された。
言うまでもなく、日本で面白いコント師の頂点を決めんとする大会である。
冒頭に私の駄弁を連ねても仕方がないので、さっそく本編に参りたいと思う。言うまでもなく、内容はその感想である。
◯
■うるとらブギーズ 462点
喋っている人と一緒に喋ってしまう人と催眠術師のコント。
設定はシンプルだが、それが普段は催眠術師に注目する状況なのにそれどころじゃない、とか、催眠術どころじゃない、といったところにつなげていたのは面白かった。また、他の観客が喋っていることを「一緒に喋ってしまう人」の口から喋らせる、というやり方も非常に面白かった。
色々と遊べたのは、「一緒に喋ってしまう」という設定のシンプルさの妙であろう。
ただ、ここまでハネるとは思っていなかった。
■ネルソンズ 446点
3人いることを活かしたコントだ。
マネージャーが大学生と遊んでいるらしい、という「ここだけの話」を同級生から聞いた和田まんじゅうが先輩に早速話してしまい、話がこじれていく。この同級生と先輩が揉めている中、それを和田まんじゅうと観客が俯瞰的に見る、という構図。
ここで面白いのは、この話、全面的に和田まんじゅうが悪い、という点だ。
俯瞰ポジションに常識人を置いてツッコミをするのではなく、あきらかな「ヤバイやつ」*1を置くことで、場としてはツッコミが欠けるような形になるが、これを展開だけで笑いに繋げられている、つまり構造が極めてシンプルで笑いやすいというところに、きっとこのコントの凄みはある。
ただ、この和田まんじゅうが、最終的にチームメイトをドン引きさせるに至るほど「ヤバイやつ」になったのがまずかったかもしれない。それまでは、口が軽いヤバイやつだけど、先輩のブチギレ具合が尋常じゃなく、それに怯えている、という《異常性》へのエクスキューズがあり、それこそが人間の弱さみたいな可笑しみになっていたはずだから。
■空気階段 438点
水川かたまりがタクシーに乗ると、運転手である鈴木もぐらが「前も乗せたことありあすよね」と言う。しかし、水川には憶えがない。果たして水川が降りると、すぐさま水川が乗ってくる。鈴木が「さっきも乗せましたよね?」と訊ねると、水川は「え?」と答える。これはいったいどういうことなのか? という怪談チックなコント。
タクシーという空間での不条理なネタは、千鳥のコント漫才「よだれだこ」を思い出させる。
ただし、あちらは終始「よだれだこ」「ポカリがわ」という大吾演じるキャラクターが《異常性》を担っているのに対し、こちらは次第に状況が異常な方に転じていく、という構造を持っている。
当初は、鈴木もぐらの「前にも乗せたことありますよね」からの「トランペットにヘチマがつまってた」や、スタンプカード性からして運転手が「ヤバイやつ」なのだが、ガラッと、鈴木の言っていることは正しく、水川にそっくりなやつが何人も存在している、という《異常性》が前景化する。
鈴木のインパクトある見た目からしてもこの展開に対する「驚き」はすごかったが、しかしこのコントの《異常性》が顕になるまでが長く、少しだれてしまったかもしれない。
ただ敗退時の「お笑いのある世界に生まれてよかった」は最高だった。
■ビスケットブラザーズ 446点
上を見ながら、下を見ながら歩いてきた2人が出会う。実はこの2人、かつて結婚し、しかし生き別れてしまった元夫婦だった! というコント。
すごい面白かったんだけども 、同時に、どこが面白いのかが分からないコントでもあった。具体的にどこが「面白い」をのかをうまく言えないのだ。
照明変化をつけて急に雰囲気が変わるところとか、リフレインとか、掛け合いのフレーズの切り方がだんだんと強引になっていくこととか、面白い個所はいろいろあるんだけども、「これがあるから面白いのだ!」が言えない。
だからどう評せば良いのかが分からない。
悪くないんやけど、うーん、悪くないんですよ、悪くないんやけど――と言う松本人志のスタイルみたいでなんだか気が引けるが、実際そうなってしまう。
好きなんだけどね。
■ジャルジャル 457点
野球部の新人と、その教育係。新人がマウンド(グラウンドの端にある、ブルペンとして使われる場所とかだろうか)に行こうとした途端、教育係はめちゃくちゃな言葉を喋り始める。しかし、本人はちゃんと喋っている、という。果たして? というコント。
ネタバラシをすると、この先輩は声の周波数が特殊で、ある長さ以上離れると日本語で喋った声が英語になるのだという。
このコントは、そんな「一定の距離」「言語の変化」というシンプルなルールに支えられている。しかし、だからこそ様々な遊びを入れても混乱しなかったのだろうし、このシンプルさをうまく使い、アイデア一発ネタにせずコントに仕上げていたのは、設楽が指摘したようにうまかったと思う。
また、元々の英語が、英語と受け取れない言葉だったことで、英語を喋ると日本語っぽくなるが、その日本語が文法めちゃくちゃで気持ち悪い、というのも面白い。
ただ、中国語と中国地方というのは、ちょっとオチとして弱かったなあ、と思う。
■どぶろっく 480点
村の男が、母の病気を治すため何とか薬を手に入れようとし、そこにその心の優しさを見込み、お前の望みを何でも一つ叶えてやろうと神様が現れるというコント。
序盤、江口が持ち前の歌唱力を武器に、それなりにミュージカルっぽく、状況と感情を歌い上げる。しかし、サビで彼が「大きなイチモツをください」と下ネタを発して事態は一変する。
そう。これは、言ってしまえば、彼らがいつもやってきたような、単なる下ネタなのだ。そして所詮は、シンプルな「天丼」なのだ。しかし、これが悔しいぐらいに面白い。
だが、これは単なる下ネタなのだが、同時にちゃんと「芝居」だった。
まず、江口は「母の病を治す」という「まっとうな願望」を持ち、また森演じる神様に諭されて何度も元の願いを思い出すのだが、結局は「大きなイチモツ」を願ってしまう。神様という超常的存在つまり願望を叶える機会を前にして、体面とか、「正しいこと」を放り出してまで、「大きなイチモツ」という己の願望を優先しようとしてしまう、というのが良い。
また、神様が諭すように、「イチモツ」は大きさじゃないのだ。
ペニスを「イチモツ」と言い、大きさにこだわるとき、それは尿を排泄するためとしてではなく、性交に使用することが想定されていると言ってよい。そして、ヒトが性交を行うのは、主に遺伝子の交配のためである*2。
より性交をし子供を残すつまり自分の遺伝子を繋げるには、大事なのはペニスの大きさよりも精子の「元気さ」とか量であり、むしろ変わって嬉しいのは、「イチモツ」よりも睾丸であろう。
しかし、村の男は「大きなイチモツ」を願うのだ。それはもう見栄でしかない。この「くだらなさ」が「人間」以外なんと形容できよう。
この点で、これはたしかに「芝居」でありコントだった。
■かが屋 446点
花束を持って恋人が現れるのを待つ男と、舞台となる喫茶店の店員のコント。
このコントは、設楽が指摘していたように、とても「上手い」。
カレンダーを置くことで、暗転前後が同じ日の出来事であることが明示的になるし、「蛍の光」で、閉店間際なのに……というペーソスを醸し出している。また、男の格好から、これがプロポーズであり、これに賭ける男の気持ちも伝わってくる。だからこそ、先のペーソスがたまらなくなる。
そして最後、「それは遅れたことに対してだよね?」が、彼女が何を言ったのか。そして、もうどんな顔をしていたのかすら立ちどころにイメージさせる。
今回はハネなかったが、あるいはこういう形の賞レースではハネにくいのかもしれないが、このコントを見られたことは幸せだったと自信を持って言える。
男が恋人を追い、しかし戻ってきて会計をしようとする律儀さが好きだ。それに、「いいですから、追って!」と言う店員も。
■GAG 457点
男女コンビと、そのうち女性の彼氏が登場するコント。
男女お笑いコンビはその彼氏に挨拶に行き、その場でネタを披露するが、そのネタがことごとく「ブスいじり」であった、という展開を見せる。
男女コンビで「ブス」ネタをするのはよくあることだが、ここに彼氏というキャラクターを登場させることで、その微妙な空気そのものが笑いになるわけだが、「逆に」でなく「順に」篠田麻里子似である、と憤る彼氏が良い。
ここでは、常識化した「ブスいじり」ネタが相対化されている。
「お笑いって異常な世界やな」とか「市役所では考えられへん」とかのフレーズがとても面白いし、この面白さで「相対化」が前景化していないのがバランスとして良いなあ、と思う。あとコントとして「順に」面白いし。
オチも公務員でいい。いやあ、いいんだよなあ、福井くん。
■ゾフィー 452点
不倫をした腹話術師の謝罪会見のコント。
まあ、人形がとても面白い。にじりにじりとした首の動かし方とか。そして、人形を使って、最終的に腹話術師が「悪くない」ということに行き着くところも最高。
また、反対に人形を使えないと、尋常じゃなく端切れが悪くなるところも。
けれども確かに、松本の言うように、カメラがちゃんと人形に寄っていることで一視聴者である私は「より笑えた」のは否めなかったのかもしれない。
「興奮して立っちゃうやつはバカだ」というセリフは最高。
■わらふぢなるお 438点
バンジージャンプをするとスタッフの人の話。
スタッフがかなり異常で、怖がる人と対照的に、紐を付けずにジャンプするなどの異常性/過剰性を発揮していくという構造であった。
悪口を言って、縄を投げてくれるかのギリギリを楽しむところに至る、という「最後」は面白かったが、なんとなく、自分の中ではハネなかった。
バンジーがそもそもTVのものであり、異常に見えるので、その中で異常なやつがいることを、楽しめきれなかったのかもしれない。
なんとなくサンドウィッチマンに似ていたなあ。「下の名前無いんですか?」ってボケも、「なんだよ、下の名前ないんですか? って」というツッコミも。つまり、ワードセンスが。少しだけ。
◯
本当は、最終決戦まで一気呵成に書こうと思っていたが、長くなったので、ここまでで一旦記事を終えようと思う。
なんたって、ここまででもう4,000文字を超えている。
ちなみに1stラウンドでは、
点数1位、2位のどぶろっく、うるとらブギーズ、
そして3位が2組いるなか決選投票の末ジャルジャルが勝ち上がりとなった。
個人的に1stラウンドのFavoriteは、
水川かたまりの「お笑いのある世界に生まれてよかった」と、
GAGの「市役所では考えられへん」と、
ゾフィーの「興奮して立っちゃうやつはバカだ」である。
では、書く元気があれば、また「最終決戦」の記事で。