『プロメア』感想: 堺雅人の口から蒙古タンメン中本のスープ
今石洋之監督、中島かずき脚本、そしてTRIGGER制作の映画『プロメア』を観てきた。
これが良すぎて、とても興奮してしまって、さめやらない。
とても「楽しい」映画だった。
無論、とても面白く観たのだが、感想としては「面白い」より「楽しい」が先に出る。
今回は、そんな『プロメア』について書いていきたいと思う。
なお以降の記述には『プロメア』のネタバレを含む。
『プロメア』の世界には、炎を操る新人類バーニッシュが存在する。
彼らは30年前に現れ、彼らの出現に端を発する世界大炎上により多くの人命が失われた。
プロメポリスでは、放火テロを繰り返す過激派バーニッシュ集団マッドバーニッシュに抗するため、高機動救命消防隊バーニングレスキューが消火活動を行っていた。
バーニングレスキューの新米隊員であり、プロメテウスの司政官クレイ・フォーサイト(堺雅人)に命を救われたこともあるガロ・ティモス(松山ケンイチ)は、火災現場でマッドバーニッシュの首魁であるリオ・フォーティア(早乙女太一)と出会う。
この2人の出会い以降、物語は大きく動き始める――。
あらすじや世界観はこんなところだ。
『プロメア』は様々な「解説」や「批評」を書けうる映画である。
ぐるぐるカメラワークは観ていてワクワクする。
炎が三角形で表現されているところなど、露骨に何か「意図」がある。
「火」「消し」の言葉遊びも、聞いていて心地が良い。
しかしそんなことは、ここではあまり書くつもりはない。
そういったモティーフや技巧について、私が書くよりより上手にしたためられたブログも、もう既に世間には溢れていることだろう。
それに、上に挙げたものに価値がないとは言わないが、映画を観終わったあとの私は完全にそれどころじゃなかった。
堺雅人がヤバかったからだ。
映画では冒頭、世界観がざっくりと語られ、そのまま現代のバーニッシュによる火災テロ事件のシーンへと移る。
このシーケンスが、いきなりの澤野サウンドも伴ってとてもかっこいい。
そこから始まるアクションシーンも、ワクワクさせられる。
この戦闘でガロはリオを捕らえ――身柄はフリーズフォースが連行するが――プロメポリスの司政官であるクレイ・フォーサイトから勲章を受ける。
ここに来て、初めて堺雅人のセリフが聞ける。
堺雅人なんて「有名な」俳優を起用している時点で、クレイは単なる司政官であるはずがない。
だから何か裏のあるキャラクターだという予測は立てていた。
そして堺雅人だし、まあそのあたりは上手に演じるだろう、ぐらいに公開前から思っていた。
公開直後から、堺雅人がヤバいというツイートがたくさんタイムラインを駆け抜けていった*1。
クレイが初めて口を開いたとき、私は「あ、堺雅人だ」と思い、そんな一連のツイートのことを思い出していた。
スタッフの名を並べた時点でそうならないと確信できても良かったような、当初の私の推測を述べさせてほしい。
堺雅人と言うと「リーガル・ハイ」は当たり役だった。毒舌で偏屈で、ひどく早口でまくしたてるように喋る人格破綻者の弁護士・古美門研介。
しかし、彼は当然そんな大味の演技しかできないわけじゃない。むしろ、あまり大きく表情を変えるでなく、何かが感を雄弁すぎるほど語る、そんな演技も魅力なのだ。
それは些細な筋肉の動きか、あるいは声色の変化か。
仔細なことを論じられるほど私は演技には明るくないが、兎角、クレイの糸目を見ていると、そんな繊細な演技が「ヤバい」んだろうと思っていた。
まったく愚かな予想だった。
映画中盤以降、まあ色々紆余曲折を経て、ガロとクレイは対立することになる。
そしてそれ以降の、堺雅人、もうまじでノリノリなんである。
驚くべきほどに順調な出世ルートを歩んできた司政官であり、ガロの命の恩人であるクレイが理事長を務めるフォーサイト財団が、バーニッシュに対し人体実験を行っていることを、ガロはリオの口から聞かされる。
その話は果たして本当であり、彼はマグマの活動が活発し半年後には人の住めない星となる地球に見切りをつけ、10,000人の人類を乗せたノアの方舟たる宇宙船パルナスサス号で、4光年離れた星へと移住するパルナスサス計画を進めていた。
そして、バーニッシュをその宇宙船に不可欠であるワープ装置の動力源とすべく、実験を繰り返していたのだった。
さらにクレイは、プロメテウス博士(古田新太)を殺害し、博士の研究成果を横取りしていた。
まあ、とんでもないクソ野郎だったわけである。
この「クソ野郎」という一方的かつ完全な「悪」という構図が、作中ずっと存在するわけじゃない。
そもそも『プロメア』においては、絶対的な正義なるものは切り崩される。だから、完全なる悪なるものも存在し得ない*2。
しかし、目的のため人命を軽視する者と主人公の対立は少なくとも必至である。
ガロとリオは、プロメテウス博士の開発したデウス・エックス・マキナに乗り込み、パルナスサス計画を実行に移さんとしているクレイを止めにいく。
クレイは、デウス・エックス・マキナ改めリオデガロン*3を妨害すべく、自身もロボット・クレイザーX*4に乗り込み対峙する。
ここからの演技がすごいのである。
まあ、わかりやすく言えば「熱演」につぐ「熱演」、「大熱演」。
あまりの熱演ぶりに、私は思わず笑いそうになり、口を抑えながらスクリーンを見つめた。
べつに演技におかしなところなんかなかった。
ゲスト声優に対してよくある「棒読みで草」なんてことを思ったわけでは全然ない。
むしろ反対に、なんかもうすごすぎて、そして楽しすぎて笑けてきたのだ。
サッカーの試合で、もうわけがわからないゴラッソを見て思わず笑ってしまうみたいに。
そしてこの堺雅人、加減とか全然知らない。
もう全セリフ、全力でこっちのことを殺しにきている。
堺雅人の演技のテンションは昂ぶっていく。
もうこれが全力だろ、と何回も思う。
しかし、セリフを発する度にその「全力」を超え、どんどん勢いを増す。
「もっと頂戴」なんて言葉があるけれど、まじで「もっと」くれるのだ。
サービス精神の鬼。KAT-TUNのライブでいうと、「Real Face」を連チャンでやってくれるぐらいすごい。
「ギリギリでいつも生きていたい」そのギリギリのはずのラインすら更に「思いっきりブチ破」ってくる。
もうやばすぎてこちとら「泣き出す嬢ちゃん」になるしかなくて、田中はJOKER。
KAT-TUNのライブ知らんけど。
ここですごいのが、堺雅人がどこまで行ってもちゃんと堺雅人であることだった。
アニメに合わせてか大仰にやった部分はあるだろう。それが「全力」を感じさせたところがないとは言えないだろう。
しかし、その声はちゃんと堺雅人だった。無理がなかったのだ。
だから、これは最初から最後までキャラクターの延長線上にある声なのだ。
そしてそれでいて、いや、だからこそ、TRIGGERであり中島かずき作品のキャラクターなのだ。
あぁ! 堺雅人がロボットに乗っている!
堺雅人が、彼らの「いつものやつ」をやっている!
めっちゃ見たいやつじゃん!
そんな愉快な気持ちになり、この「凄まじさ」と相まって、とても笑いたくなったのだ。
そんなわけで、堺雅人の演技を前に、私のテンションはぶち上がってしまった。
映画館じゃなければ、その場で拳を突き上げたかった。
「Fuuuuuuuuuuuuuu!!!!!!!」と叫びたかった。
観たいものを見せてくれたことに打ち震え、その喜びを表明したくなったのだ。
したいのは応援上演じゃない。
「Fuuuuuuuuuuuuuu!!!!!!!」と――。
さて、肝心のストーリーや意匠なんかについては書かないと先述したが、正直なところ、 あまり憶えちゃいないのだ。
ちゃんと解説とかしてくれているブログを読むと、ああそうだったね、なんて思い出せる。なかなか手に汗握って観たような記憶もある。
しかし私が途中から、ストーリーとかどうでもいいモードに入ってしまったのだ。
アクションでどっひゃー! って言いてえし、堺雅人は堺雅人だし、もういいじゃん、みたいな。
ラストシーンは澤野サウンドが鳴り響く中、もう「ごっつぁんです」しか言えない。 完全なるK.O劇。
中国人の経営している中華料理店で、もうバカみたいな量の料理が出てくるあの感じ。
演技のテンションも高かったが、アクションシーンのカロリーもなかなかに高い映画だったことは記憶している。
だからまじで胃もたれを起こしかねない勢いではあるのだが、翌日もまた観たいとも思わせてくれる。
これがマジで意味が分からない。
たぶん蒙古タンメン中本に通う激辛好き共もこんな感じ。変な物質がたぶん頭の中で出て、すごいやばかった。
新手のクスリ。大麻よりプロメア。
そんなわけで、堺雅人*5がやべえ映画『プロメア』をよろしくお願いします。
ちなみに映像もやべえし音楽もやべえし、いろいろやべえです。
てか、やべえんで。はい。