ヤンキーになりたかった

食う寝る遊ぶエビデイ

アイドル冠バラエティ番組というファンタジー、あるいは加藤史帆のホームランについて

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憂鬱で仕方ない日曜日の夜に、テレビ東京でこんな名前の番組が流れている。

「乃木坂工事中」「襷って、書けない?」「日向坂で会いましょう」

みんな、坂道グループの冠バラエティ番組だ。

 

これらの番組はみな、男性芸人と10~20代前半のアイドルたちが繰り広げるトークバラエティの形式を取る。

立ち位置としては、男性芸人がMCをして、アイドルたちはひな壇を務める。

芸人の年齢が高くなりがちなのは、MCを回せる実力が求められるからだろう。

 

番組中、アイドルたちは制服を模したような衣装に身を包む。

芸人らは、よくスーツないしビジネスカジュアルライクな服装に身を包む。

だからだろうか。

私はそこに、「理想的なクラス」のようなものを見出してしまう。

MCを務める芸人を担任とし、彼女らが生徒であるような、そんなクラスを。

 

そのクラスには間違いなく裏がない。

なぜならそのクラスは、あの収録スタジオにしか、そしてカメラが回っているとき=表の時間にしか存在しないからだ。

仮に、メンバー間に仲違いなどがあったとしても、フィクションとして作られた場にしかそもそも存在し得ないクラスには、それは表出しない。

その時空は、まぎれもなくファンタジーだ。

素晴らしい、和気あいあいとしたクラスルームの――。

 

そしてこの前提において、彼女らのバラエティスキルの低さは、武器になる。

グダグダ感を隠しきれない彼女らのトークや持ち時間は、今にして思えばなにが面白かったのか言語化しがたい、笑い転げたあの頃の時間を想起させる。

それが「クラス」感であり、教室感という物語の強度をむしろ高めるものとして作用するのだ。

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また、しかし、そのグダグダな時間もMCが存在するおかげで見られるものつまり番組になる。

そのトークを見て、彼女らはバラエティを学んでいく。

さながら、巣立つ時期に向け餌取りのレッスンをする親鳥とひな鳥のようである*1

 

乃木坂46紅白歌合戦に出たとき、NHKホールの客席側に設けられたブースにいたバナナマンが彼女らに手を振っていた。

彼らを見つけたメンバーは、少し感極まったような顔をして、手を振り返していた。

それはもちろん、「乃木坂工事中」およびその前番組であった「乃木坂って、どこ?」においてバナナマンがMCを務めていたからだ。

番組で共演しているから仲がよい、というだけの話では勿論ない。

彼女らは今の地位に至るまでに、そのバラエティ番組で鍛えられたわけだ。

師弟関係――つまり先生と生徒である*2

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 さて、なぜ私がこんなに熱弁をふるうかと言うと、つい先日(6月9日)、「日向坂で会いましょう」を見たからだ。

その回では、メンバーの「意外な一面」を見つけよう、という企画が展開されていた。

デビューし他番組での露出も増えてきたメンバーが、同じ特技ばかり披露して飽きられることがないよう、「2周目」以降もテレビ的に使える武器がなくては――というストーリーだった。

 

そのなかで富田鈴花が「野球のピッチング」が得意だとアピールし、MCを務めるオードリーの若林とキャッチボールをすることになった。

キャッチングは上手いしそれなりには投げれて、「良い感じ」。

そこで若林は、他にも投げてみたい人いる? とメンバーに問いかける。

すると、高本彩花柿崎芽実、佐々木久美、東村芽依加藤史帆が手を挙げる。

この加藤史帆が素晴らしかった。

 

まず3回連続で、地面に叩きつける殺人投法。

絵と音のインパクトも、天丼なのも素晴らしい。最高*3

そして、その加藤、「バッティングのほうが得意」と主張し、実際に打席に立たせ春日が投げてみたときの画像が、こちらである。

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腰が入り、体の前に壁を作り、バット が身体に巻き付くように回る。

まさしく完璧なホームランだった。

もうこんなの笑うしかない。

殺人投法からのギャップが完全に効いている。

最高だ。完璧に持っていかれた。ボールも、笑いも。

 

アイドルバラエティはグダグダなことが多い、と先ほどは述べた。

しかしときどき、こういう「完璧」な瞬間が訪れるのだろう。

やっぱりそれは、教室で本当に稀に起こる「化学反応」みたいに*4

 

この「完璧」さ、オードリーの2人が腹を抱えて笑い転げていたのも良かった*5

この「楽しさ」は、何よりのエンタテインメントたりえる。

「こういう番組」の楽しみ方を解した気がした、そんな日曜日の少し楽しい夜だった。

 

*1:ここでは言うまでもなく、バラエティスキルは、単純な面白さのスキルと、キャリア形成に必要な「必須科目」を兼ねている。 

*2:先ほど、「クラス」は当該番組のスタジオにしか存在しない、と述べた。だから厳密には、ここでバナナマンと乃木坂の師弟関係を持ち出すのはやや卑怯ではある。だが、これは紅白という「晴れ舞台」だからあり得たものだとして了解して欲しい。安全で、楽しいクラスと、その晴れ舞台しか存在しない――そんなクラスはやはりファンタジーだ。

*3:「俺的にはね、あと8回被せたい」と笑いながら言う若林も最高。

*4:学校の近くに雷が落ちたとき、爆音がするなり立ち上がり、拳を突き上げ「ドーンッ!」と叫んだクラスメイトを思い出す。字面にすると別に面白くもなんともないが、あの瞬間はとても面白かった。

*5:というか、私は単にオードリーが好きなのである。このままだと、日向坂の最推しがオードリー若林になりかねない。