ヤンキーになりたかった

食う寝る遊ぶエビデイ

センター試験でコケたのに華麗に進学キメた佐島の話

相も変わらず寒くてしょうがないが、この土日、東京は雨や雪の心配がないらしい。北日本は少しマズイとかなんとか。

特に予定があるわけでもないのに天候を気にするのは、この土日がセンター試験だからである。

 

センター試験。もはや懐かしい響きだ。

すでに初日の試験を終えた受験生たちに私から送ることのできるアドバイスはない。とはいえ、得意げに自分語りをするのも芸がない。

だから今回は、私の同級生・佐島(仮名)のエピソードを書こうと思う。例のごとく本人に許可は取っていないが、まあどうせ本人も忘れていよう。

 

さて、センター試験は、はっきり言って難しい試験じゃない。

目指す大学が難関校と名指されるものになっていくにつれ、よりこの試験は「いかに落とさないか」が問われる試験になっていく。

 

私は、地方のいわゆる進学校に通っていた。

それに、友人は理系に進んだものが多かった。

だから多くは国公立志望であり、まあ簡単に点をとって、さて二次試験は第一志望の国公立に出願するかな、とかそんなことを抜かす予定でいた。

 

しかし、予定はあくまで予定である。

一日目から少し雲行きは怪しかった。

国語とくに古文が難しく、試験終了後の会場は阿鼻叫喚だった。

周囲の見知らぬ受験生は「意味わからんくない? 全部3にしたんだけどw」「ウケるw」とか言っていたし、同級生の一人は「は? わけわかんないんだけど? は?」と動揺しすぎて私にキレてきた。いや、知らんし。

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とはいえ一日目終了時点で、そこまで悲観的な空気はなかった。

先述の通り私の周囲には理科系が多く、また初日の科目は文科系科目がメインであり、「ゆーて理系なら他のやつらもできてないっしょ」という謎の言い訳が出来たから。

一つは、自己採点をしていなかったことで、被害状況がまだ具体的には認識されていなかったから。エトセトラ。

 

私たちは元気に別れ、翌朝も元気に挨拶を交わした。

そんな理科系科目メインの二日目。

簡単なはず、と見くびっていた数学1Aが激烈に難化した

 

ちょうど数1A終了後が昼食時間だったのだが、もう佐島も含めみんな目の焦点があっていない。

「俺、志望校決めたわ。駿台」とか、面白くもないギャグを真顔で言ってくる。

河合と代ゼミで花占いを始めるやつまでいて、お通夜みたいな空気だった。

 

昼食後の試験は数学2Bと化学、物理または地学だった。数学2Bはやや易化したが、化学と物理は見事に難化していた。

理系生の多くは化学と物理を選択していたからこぞって散っていった。見事な散りっぷりで塵となっていった。

佐島もそうだった。

 

試験会場からの帰路の電車内は、昼休憩にも増して暗く、お通夜を通り越して地獄だった。

私は不真面目な受験生だったから、もう試験のことなど忘れて西尾維新を読みながら電車に揺られていたのだが、何やら横で落ち着きがない者があった。

佐島である。

 

どうしよう、どうしようと佐島は青ざめるばかりで、自身が青ざめたことでさらに青ざめるような、そんなどうしようもない状態だった。

「終わったことなのだからどうしようもあるまい」と言うと、

「どうしよう」というのだから仕方がなかった。

みなが最寄り駅だからと降りていき、私と佐島だけになった。

 

佐島は意を決したように、「今から、自己採点する!」と宣言した。

自己採点――公開された解答を元に、自分が何点取れているか採点する行為。

それは、現実を突きつけられる非情な儀式だ。

「待て、佐島」と私は言った。

「いや、いいんだ。僕はやるよ」

「しかし――!」

「このままじゃ、気になって気になって仕方がないんだ」

「そんなことをしたら――」

「だって、もう終わったことだから。今から点数が変わるわけじゃないし」

むむむ。これは一本取られたぞ……とか言っている場合じゃなくて……。

 

白状するが、私はこのとき既に、佐島の点数が悪いことは確信していた

だって、帰路で彼の口をついて出るのは、失敗しただのコケただの、試験に対するネガティブな感想ばかりだったし、顔の青ざめ方がハンパじゃなかったし、何より佐島にはなかなか阿呆なところがあった。

打算的な私はすぐに、どう慰めるかについて思考を巡らせたが、私の貧弱な脳みそでは、適切な解答を導き出せなかった。

 

「いいのか?」と私は訊ねた。

「うん」佐島が、まだ何もしてねえくせにやりきった感たっぷりに言いやがった。

「もし点数が悪かったとして、俺はお前を慰められる自信がない」

「うん」

「でも、やるのか?」

「うん。それに、点数が悪くても、慰めてくれなくて構わない」

そこまで言うのなら、と私は採点を促した。覚悟を決めた男にできることは、それぐらいのことだろうと思ったのだ。

かくして佐島は自己採点を開始した。

数分後、そこには、さらに顔を青ざめさせて「どうしよう!」と言ってくる佐島の姿があった。

 

「ヤバい……ヤバい……」と、佐島はそればかりを口にする。

しかし、私には慰めるわけにはいかない。

それが数分前の男・佐島との約束だからである。

「慰めて!」

男・佐島との約束だからである。

「うわあ、どうしよう! 物理48点!  ねえ、ねえ???」

約束……とは……

 

そうこうしているうちに電車は佐島の最寄り駅に着き、彼は電車を降りていった。

巨漢であるはずの彼の背中が、その日はとても小さく見えた。

彼はこのまま死ぬんじゃないか、私はそう思えてならなかった。もしかしたら彼は、我が県の誇るあの海に向かって身を投げてしまうのではないか、と。

 

翌日、センターリサーチ*1を出すために、私たちは登校することになっていた。

自己採点を経て被害状況が確認され、受験生たちはみな動揺していた。

国語や理数系科目の難化を嘆く声も多数聞かれた。

「どこに出しゃいいんだよ……」

「国語80点……」*2

「数1A40点……」

進学校とはいったい……。

 

そんな中で、昨日はあんなにも死にそうな顔をして別れた佐島が、ケロッとした顔をしていた。

いったい何があったのだろう? それとも、無の境地的なアレだろうか? とか思いながら、私は彼に話しかけた。

「昨日あれからどうだった?」

すると彼は、顔色ひとつ変えずこう答えた。

「あのあと、お母さんのカレー食べたら、元気が出た!」

あ、そうですか。

 

なお後日譚だが、私たちの多くがことごとくスベり倒して浪人を決めていく中、私たちの周囲では佐島だけが国公立大に合格し、現役進学を決めた。

彼の得点を聞くにいったい何が起こったのかと思ったが、今となってはもう当時のことは分からない。

確かなのは、彼が真横で自己採点しオロオロしていたことと、彼が母親のカレーを食べて元気を出したということだけだ。

 

毎月20日カレーの日である。

今年のセンター試験2日目は、偶然にも20日だ。

みんなでカレーを食べよう。それがいい。きっといい。

 

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*1:全国の受験生が自己採点結果をもとに志望校を書いて予備校に提出する。予備校はそれをもとに各国公立大のセンター試験得点のボーダーラインを算出し、合格可能性判定と共に返却する。

*2:国語は200点満点である。