ヤンキーになりたかった

食う寝る遊ぶエビデイ

カラオケという名の地獄に音楽は絶えない

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世間はクリスマスイブだ、イブイブだなどと騒いでいる。年末である。

どうもこの連休は寒波がきているらしく、さらに仕事納めの頃にはもっと強い寒波が来るそうである。

暖冬とは何だったのか。勘弁してほしい。

 

さて、年末である。年の瀬である。

恋人がいる人にとってはクリスマスは一大イベントだろうが、そうでない人たちにとっても、多くの人にとって避けられないイベントが存在する。

忘年会である。

 

忘年会といえば余興――若手社員が何かやらされるか、良い年した管理職がノリノリで何かやるのを見せられるか。まあ、どっちにしろ気分は悪いもので。

マスコミが騒ぐところによると、今年のトレンドはDA PUMPの「U.S.A.」らしい。

まあ、今年流行った曲だし、DA PUMPの名は懐かしさがあるし、これほど忘年会に向いている曲もない。何かしないといけないなら、悪くないチョイスだと思う。

 

と、ここまで書いてきた内容からの予想した展開とは異なるだろうが、私のいる部では、幸いにして余興の文化はない。

だからこういったダンスだとか歌には無縁……のはずだった。

事件が起こったのは、年末ではないがとある四半期期末も近づいたとある夜のことだった。

 

その日は、確かに四半期末は近づいていてやや慌ただしさはあったけれど、それでもなんてことのない金曜日だった。

残業していると、あまり話したことのない先輩が「いまから飲むんだけど、来ない?」と話しかけてきた。

「佐藤くんが、キミがドラマをめっちゃ見ているって言ってたからさ。語ろうよ」

 

 

私は別に「ドラマをめっちゃ見」るタイプではなく、たまたまそのクール、面白く見ていた作品があると話したことがあるだけで、それを佐藤という同期*1が誇張して伝えていたのだった。

なので、何か「語」れるとも思わなかったが、その「語ろうよ」と投げかける瞳の何も疑っていない感じに引くに引けなくなり、「はい」と言ってしまった。

 

私たちはさっそく居酒屋へと移動した。

「いやあ、あのドラマいいよねー」と、早くも先輩はジャブをしかけてきた。

「いいですよねー」と返すと「うん」と先輩は満足げに言い、話は終わった。

 

その後、何人かが合流し、以降ドラマの話をすることはなかった。それなりの人数の飲み会になり、その中で二人で話すのも、といった具合になったからだった。

あー、もしかして、あの雑な返しから幻滅させてしまっただろうか。だとしたらば、89%ぐらい佐藤のせいだけど、それはそれで申し訳ないな、とか考えていると、終わり際、くだんの先輩が満面の笑みでこう言ってきた。

「いやー、今日は語れてよかったね」

 

……は? え? そんなので良かったの?

と、まあ、正直言うとかなり拍子抜けしてしまった。ああ、なんだ。普段私がクソオタクをこじらせているせいでこんな長文レビューを書いているだけで、クソオタクをこじらせた人たちと学生時代につるんでいたせいで居酒屋の閉店までずっとアニメや映画の話をしていただけで、本来「語る」なんてのはこのぐらいでいいんだ。

そんなことに気づけた夜だった。

 

さて、ここで終われば、なんてことはない飲み会の話である。

しかし、困ったことがあった。私たちの多くは大いに酔っていたことである。それはもうすこぶる酔っていた。

先輩はこんなことを言いだした。「ねえ、主題歌デュエットしようよ」

 

……は?

この発言を受け、なんだか「カラオケ行きましょう! カラオケ~!」みたいな空気になってしまった。こうなるともう歯止めは聞かない。開戦前の空気である。

「代表堂々退場す」よろしく逃避を試みるが、飲み会の参加者も多く自然と目を光らせる者も多い。すぐに捕まり、首根っこを摘まれ、カラオケボックスに連れ込まれてしまった。

 

早速入れられるドラマ主題歌。渡されるマイク。

ちなみに、この主題歌、全然デュエット曲なんかじゃない。

どうすればいいんだ、と思っていたらば、まず先輩が歌いだした。そしてサビ終わったら「次はキミだよ!」みたいなアイコンタクトを送ってくる。

は? なに? 「打上花火」のテンションなわけ? 俺ら米津玄師とDAOKOなわけ? もう全国の米津玄師とDAOKOに謝るしかない。

……先輩のあとを受けて歌い始めたが、なんか普通にムズかった。

 

しかしここでも先輩は満足げだった。

まあ、満足げならいいですよ、なんてな気分。

その後は、90年代からゼロ年代の名曲が並び、ときどき星野源「恋」やRADWIMPS前前前世」など、妙に当時既に古いと思えるチョイスの曲が挟まれる構成。

会社のカラオケに行くのは初めてだったが、「ああ、これが会社のカラオケなんだなあ」みたいな感じだった。

酔っ払いきった面々が熱唱する中、少し疲れた私はトイレへと向かい用を足した。

戻ってくると、上坂すみれの「POP TEAM EPIC」が熱唱されていた。

 

……は?

いや、わけがわからない。さっきまでの雰囲気はどこに行った? 

間奏に入り、佐藤は「いやー、ほんとクソアニメだわー」と得意顔で言った。まあ、ここから分かると思うが、佐藤はクソオタクであった。

いや、そんなことはどうでもいい。『ポプテピピック』である。え、なんで?

ちなみにこの時点で、最初は「1時間ぐらい」とか言っていたカラオケももう酔っぱらいの集団なのでそんなことは当然なくて、終電ないし朝までいようか、なんて感じになってしまっていた。え? マジで? これ、朝までやるの?

 

私が驚愕しているうちに、「POP TEAM EPIC」は終わった。

安堵していると、すぐにどうぶつビスケッツ×PPP「ようこそジャパリパークへ」が流れ始めた

「Welcome to ようこそジャパリパーク」じゃねえんだよ。こちとら今すぐにでもこの状況から「素敵な旅立ち」決めてえんだよ。もう「ドッタンバッタン大騒ぎ」はいらねえんだよ。

 

かくして私が混乱していると、先輩がデンモクを持った。

ああ、先輩なら、この状況をaikoとかJUDY AND MARYとかで立て直してくれるかもしれない!

そう期待していたのだが、先輩は先述のドラマ主題歌を入れた(2回目)。

 

かくしてデュエット2回目であった。

2回目ともなると、なんだか勝手が分かってくる。

できることなら分かりたくない勝手だったが仕方ない。

さて、「ようこそジャパリパークへ」が終わったあたりで、アニソンを熱唱していた1人が寝始めた。

もう夜も更けてきている。酒も飲んでいる。眠いのが道理だ。

 

おもむろにかかる、DRAGON ASH「Grateful Days」。

「これ入れたの誰?」「知らない」

なんでだよ。

そしておもむろに向けられるマイク。 

なんでだよ。

 

しかし困ったことに、この曲は知っていたので歌えてしまった。

俺は東京生まれHIPHOP育ち 悪そうな奴は大体友達

悪そうな奴と大体同じ裏道歩き見てきたこの街

日本語ヒップホップ史に残る、そしてそれ故バカにされがちなパンチラインである。まあ、実際面白いから仕方ない、

「うお~、ラップできるじゃん!」

なんでだよ。

 

と、まあ、「カオス」な状態であった。

ちなみに、先述のドラマ主題歌は3回目も入れられた。

「息合ってきたね」3回目やからな。

 

もはや疲労困憊でしかないのだが、それは他の面々も同じだったようで、次々と寝ていく参加者たち。しかし私はどうにも、元々アルコールに弱いから飲酒量が少なかったのと、いろいろ起こりすぎて脳が変に覚醒状態にあったせいで、まったく眠気がきていなかった。

そして、とはいえもうほかの人は寝ているのだから、静かに眠らせてあげればよいのに、眠らず数少ない生き残りとなってしまった佐藤くんはマイクを離さなくなってしまった。

ここから、恐怖の佐藤リサイタルが幕を開ける。

 

まず佐藤、水を得た魚のように、アニソンを入れまくる。

「俺、これでも会社のカラオケだから気を使ってたんだぜ」みたいな顔をして、なんだかハニカミながらデンモクを触る。

ああ、なんていい笑顔なんだ……。「POP TEAM EPIC」とか「ようこそジャパリパークへ」あんなに楽しそうに歌ってたくせに。

「お前も、この曲わかるだろ?w」

いっちょんわからん。

 

次々と入れられていくアニソン。

何故だ……何故眠気が来ない。これならば、寝たほうがマシではないか……

そう思いながらぼけーっとモニターを眺めていたら、足になにか熱を持った物体があたってきた。

うわ! と足を跳ね上げゆっくりとその正体を確認した。

寝ているうちにソファから転げ落ち、なおも懸命に寝返りを打とうとする先輩だった。

 

しかし、佐藤はそんな状況も目もくれず、気持ちよさそうにアニソンを歌った。

アイドルマスターのOP「READY!」を歌えば、こちとら貴様を殴る準備万端やぞ、という気分になった。

機動戦士ガンダム00のOP「儚くも永久のカナシ」を歌えば、これが人に夢と書いて儚いであるように夢だったら良いのにと願った。

超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』の主題歌「愛・覚えていますか」を歌えば、そもそも1時間だけって言っていたことを覚えていますか? と問いかけたくなった。

 

佐藤は、続いて創聖のアクエリオンを歌った。

一万年と二千年前から愛してる

八千年過ぎた頃からもっと恋しくなった

一万年と二千年経っても愛してる

君を知ったその日から 僕の地獄に音楽は絶えない

いや、どう考えても地獄は今この瞬間だよ。音楽も絶えてくれねえよ。自己紹介かよ。

 

佐藤は続いて、交響詩エウレカセブンのOPであるFLOWの「Days」を入れた。

イントロで「ラップあるぞ、ラップ!」と言い、2番Bメロが終わったところで「ラップ!」と言いながらマイクを渡して来た。うるさい黙れ。

ちなみに、ラップは、やった。

 

――朝を迎え、我々は寝ている人々を起こした。

のそのそと起き上がる参加者たち。最悪の土曜日の始まり方である。

そして私たちは、それぞれ始発電車に乗り込んで帰宅の途についた。

 

この話の教訓は、酔った後のカラオケはロクなことにならない、ということだ。

忘年会といって、羽目を外しすぎることのないよう。

また、もう既に忘年会なんざ終わったよ、という人たちは、新年会においてもこのような悲劇を繰り返さぬよう。どうかご注意願いたい。

 

とはいえ、私もこのときの出来事を、そう恨んでいるわけではない。

このときの経験もって、書こうと思え、実際に完成した記事もある。長々しい感想を語りたくば、ブログでやれ、と。

だから、まったくの無意味ではなかったのだし。

 

さて、そんな佐藤くんだが、彼は今年、退職してしまった。

その後の行方は杳として知れない。

「ヤンキーになりたかった」は、佐藤くんのご活躍とご多幸を祈っている。

 

*1:無論、仮名である。