ヤンキーになりたかった

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新入社員研修がほとんど『ONE PIECE』のワンシーンになった話

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久々に、仕事にかんする話をしよう。

私は新卒入社して今まで同じ会社で働いているのだが、この会社、日系企業ゆえと言うべきか新入社員研修の期間がかなり長い。

そうなると様々なメニューがある。以前「感動方程式」なるものを教える自己啓発チックなセミナーの話をしたが、今回は時系列的にはもっと後。研修最終盤の話になる。

 

研修の最後のメニューはグループワークだった。BtoB企業らしく、1チームを1つの企業と見立て、講師側=クライアント企業の要望を聞きながらプロダクトを提案・作成していくというもの。

よくある類のそれだが、それ以前は別個に作っていたものを今回はすべて作る必要があるなど発展的かつ総合的な研修と位置付けられていた。その名もズバリ「総合演習」。

 

長い研修期間ずっと顔を突き合わせてきたから、その頃にはみな互いに知った仲になっていた。性格も、それからスキルも。

ある朝、各チーム5人のメンバーが発表された。チーム構成は講師側が熟慮の末に決めたそうだった。席替えのとき騒がしくなるみたいにざわつくのは当然としても、途中から同時多発的にみなが「いや、あそこのチーム、ヤバくね?」とひそひそ話を始めていた。この書き方から分かると思うが、それは私の所属するチームだった。

これが「あのチームに優秀な人材集まりすぎじゃね? 卑怯だろ」ならこっそり鼻高々なのだが、まあこの書き方から分かると思うが、話は真逆だった。

 

かくして「総合演習」が始まったわけだが、私のチームは当然目をつけられた。というより、チームを組んだのも講師側ならば目をつけるのも講師側なので、むしろ目をつけるために選ばれたメンバーだった。

意図して目をつけるなんて期待の星の証拠なのでは? という意見もあるかもしれないが、悪い意味でヤバいメンバーと研修会場がざわついたことから察してほしい。

演習の詳細は文字量の関係から省くが、目をつけられた私たちのチームは「酷すぎる」と説教を食らい、しかもそれに噛みつくせいで講師の怒りの永久機関を作りあげるノーベル物理学賞ものの活躍を見せつける等、期待に違わぬムーブをし続けた。

 

そんなこんなで演習の最終日が訪れた。

最終日はチーム単位で実際に作成したプロダクトの紹介やプロジェクト=研修でのチームでの活動の振り返りなどをプレゼンテーションする発表日に当てられていた。

この晴れ舞台を前にして、私たちチームは自信を喪失していた。元々のスキルバランスや講師に目をつけられ要求事項=演習でチャレンジしていいことのレベルを下げられたこと等から、プロダクトのクオリティは他のチームと比して誰の目にも明らかなほど低かった。

だからなのだろう。私たちのチームの発表は、ネガティブな言葉が多くなった。

 

発表が終わり、質疑応答の時間になった。質問をするのは、新入社員の様子を見に来る直属の先輩など研修会場を訪ねてきていた社員だった。

質疑応答のほとんどは淡々と終わった。他のチームもそうだったし、私たちのチームもそうだった。ある1人を除いては。

その人は口を開くなりこう言った。「スケジュールの中でできることをちゃんとやったんだから、そんなに悲観的になる必要ないでしょ」

もはや質問ではないのはおくとして、その社員はやたらと私たちのことを持ち上げてくれた。そして最後にこう質問した。

 

「みんなは、もしそういう機会があるとしたら、この仲間と一緒に仕事したい?」

 

 「はい!」

と、4人が口を揃えて答えた。

 

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感動の名シーンと呼ぶにふさわしい瞬間だった。研修会場は途端に大海賊時代になり、海賊たちがひとつなぎの大秘宝ワンピースを求めて跋扈し、満島ひかりFolder5として「Believe」を歌い踊り狂い始めた。 

 

問題は、私たちが5人チームだったことだ。4人が「はい!」と瞬時に答えたが、残念ながら1人足りない。そんな80%の『ONE PIECE』だった。これではラフテルに辿り着けず、海賊王になれない。そんな大戦犯は、まあこの書き方から分かると思うが、私だった*1

 

私たちの答えを聞いたその人は、「胸を張ってそれが言えるなら何も言うことはない!」と満足げに質疑応答を終えた。そのセリフもまた感動的だった。しかし繰り返しになるが、私はそれを言っていなかった。

まあそれでも、このままで終われば美談である。研修の最後にとうとう「最高の仲間」を見つける――よくできたストーリーだ。

しかし、まあこの書き方から分かると思うが、そうは問屋が卸さなかった。

 

演習最終日である発表の翌日が研修の最終日だった。

これまでの研修全体を振り返り今後のキャリアやビジネスパーソンに大事なことを再確認するみたいな、言っちゃ悪いがつまらないメニューの日だったが、チームのテンションは朝から高かった。

「昨日のあれ、全員揃ってて良かったな!」

すまんな……揃ってはいなかったんや……

 

その日の最初は、前日の発表の振り返りだった。発表は単なる最終日の余興ではなくプレゼンテーションの練習だった。そのため発表の様子はビデオに収められていた。

「じゃあ各グループで映像を見て振り返りをしてください」と講師。

非常にまずい展開だった。このままでは、私が感動のワンシーンに参加していないことがバレてしまう。Mステの口パク程度ならまだしも私は口を開けてすらいなかったのだから、もうバレない道理がなかった。絶体絶命のピンチだった。

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 再生されるmp4ファイル。発表が終わり、いよいよ次はくだんの質疑応答の時間だった。

メンバーのテンションは改めて上がり、もうすぐあのシーンだぜ! なんて言っていた。

まあ無論、私が「はい!」と言わなかったことで激怒する偏狭な人がチームにいないことは長い期間の研修を経て私にも分かっていた。しかし、あの想い出のワンシーンが『ONE PIECE』のまま終わるのと『めだかボックス』になるのとでは天と地ほどの差がある。それに水を差すのはどうにも気が引けた。

 

私は意を決してこう切り出した。

「どんな経験も、思い出の美しさには勝てないんだよ」

 

かくしてビデオの再生は止まり、『めだかボックス』の危機は回避できた。しかし、オサレポエマーの悪名が広まるには十分だった。

嗚呼、僕はついていけるだろうか。君のいない世界のスピードに--。

 

*1:弁解させてもらうと、私もそのチームは嫌いじゃなかった。単に乗り遅れたのだ。だってそんな漫画みたいなシーンに出くわすと思わなかったから。